写楽 仮名の悲劇 |
大越 健児 平成11年10月 |
7月末、茨城県天心記念五浦美術館で、六大浮世絵師 名品展を見た。春信の見立て絵、清長・歌麿の美人画、写楽の役者絵、北斎の花鳥と風景画、広重の風景画とそれぞれに特色があり、個性豊かな芸術品と改めて認識した次第である。 これを契機として、以前読みかけであった梅原 猛著「写楽 仮名の悲劇」(新潮文庫)を再読してみた。写楽は寛政6年(1794)5月、突如として28 枚の役者絵をひっさげて浮世絵界に登場し、それから10ヶ月の間に142枚の錦絵を発表し突然消滅してしまった謎の絵師であり、写楽は誰かの「仮名」であ ると考えられている。この、写楽は誰かということについて過去に数多くの研究や提言がなされており、写楽「候補」は有名無名を含めて30人もいるという。 上記「写楽 仮名の悲劇」は、写楽の謎を解くべく、(1)作品の類似性(2)写楽の出現と消滅に関する謎(3)仮名の謎(4)同時代者の沈黙と若干の言 及の謎(5)写楽を覆い隠していたものは何か 以上5点について詳細に論証されたもので、その考証の緻密さには驚くばかりである。 それにしても、後世にこれ程の研究や検討が行われても、確たる結論は見出せないということは、当時の巧みの素晴らしさと文化の奥の深さを示しているよう に思う。最近見た浮世絵の解説では、写楽が誰かということはいつまでも判らないことを望むと記されていた。夢が続くことを期待していると思う。 なお、http://www.adachi-hanga.com/ukiyoe_new.htmにて広範囲な浮世絵をみることができる。 |